抽出クロマトグラフィを用いた放射性廃液からのレアメタルの分離に関する研究

チーム紹介

 2011年の大震災以降、国内で稼働している原子力発電所は少なくなっています。以前より、省資源国である日本における安定したエネルギー供給体制の確立を目的とし核燃料サイクルに関する研究開発が行われてきましたが、震災を経て多くの問題が露わになりました。しかしながら、2014年4月の安倍政権の閣議決定以降、原子力発電は「エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」とされたため、安全性の向上及び技術の発展は急務であるとされています。そこで私たちのチームでは、抽出クロマトグラフィ法を用いた高レベル放射性廃液からMA(III)の分離や、低レベル放射性廃液からの151Smの単離について検討を行っております。これらの研究に基づき、廃液処理のプロセスの最適化を図ることでより多くの廃液を安全に処理することが可能になるかもしれません。原発に異を唱えることは簡単ですが、それだけでは何も解決できません。福島の復興と原子力業界の再生に少しでも寄与できることを望み、私たちは日々研究に取り組んでいます。

研究内容

高レベル放射性廃液からのMA(III)の分離・回収プロセス構築に関する研究

 使用済み核燃料の再処理により発生する高レベル放射性廃液(HLLW)には、マイナーアクチニド(MA(III):Am、Cm)が含まれています。これらは放射線による長期リスクの増大やガラス固化体数の増加の要因となっており、高速炉や加速器等を利用してより短半減期の核種に変換することが求められています。このため、HLLWからのMA(III)の回収する必要があり、世界各国で様々な研究が行われています。日本でも独自の抽出剤開発やそれを利用したMA(III)分離回収技術の開発が進められていますが、高コストであることや新たな安全性評価や対策が必要であること、さらに廃液発生量の増大や高圧下での運転が必要であること等の課題をがあります。これらのことから、未だ実用的なプロセスの構築には至っていません。そこで、当研究室では安価な抽出剤であるリン酸トリブチル(TBP)によるコストの削減や、運転条件の緩和や廃液発生量の抑制が期待されるニトリロトリアセトアミド(NTAアミド)吸着材を用いたMA(III)の分離・回収に関する研究に取り組んでいます。


低レベル放射性廃液の分析能の向上

 東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴い発生した放射性廃液は、多核種除去設備(ALPS)により処理され、循環冷却を続けております。ALPSの処理性能の評価は、その処理水を放射能測定が実施され、核種の移行挙動について評価されています。ALPSの除去対象である62核種の放射性核種の一つに151Smが挙げられます。また、151Smは汚染水及び処理水の評価対象核種である38 核種の一つとしても選定されていますが、現在分析手法開発中であると報告されています。151Smはβ線を99.0%放出するβ線放出核種であり、透過力が弱く、固有のエネルギーを持っていません 。そのため、151Smのみのβ線を測定し、151Smの情報を得るには、化学的に分離精製する必要があります。そこで本研究ではSmと化学的特性の類似した他の希土類元素との相互分離を目的とし、物質の精製や元素の分離、濃縮に用いられるHDEHP 含浸吸着法をを用いた分離プロセスの検討を行っております。